これは金曜の夜に研究所で行われたパーティで飾られていた、立派なおひな様とお内裏様です。こんな立派なペアを見たのは久しぶりです。最近はマンション向きに小さいお人形が多いせいでしょうか。
富士山の麓にある故郷は寒冷地なので、ひな祭りは毎年4月3日です。3月半ば、学校が春休みに入るころ、祖父が屋根裏からいくつもの櫃に入った人形を出してくれました。祖母や叔母の古い人形も残っていたため、5〜6組のおひな様とお内裏様があって、それぞれに金屏風だの三人官女だのがついていて、大変な数でした。祖父は人形の顔を真綿と和紙で丁寧にくるんで保存してくれていました。祖父が亡くなったあとも、人形を出すたびに祖父の指が結んだ和紙を開き、しまうときにまたそれを元通りにし、もういない祖父の丁寧な仕事をなぞる作業に感慨を覚えたものです。
それから、春休みの喜びのひとつに、祖母と母とで行ったヨモギ摘みがありました。早春のぬくもりを感じ、草や土の香りを全身に浴び、田んぼの脇を流れる小川の音にも春を感じ、ウキウキするような楽しい経験でした。
白っぽい葉っぱの草がヨモギ。今日、散歩中に愛犬のみんみんがここへ導いてくれました。これが草餅にするのにちょうどいい、摘み頃のヨモギです。
茅葺き屋根の家はもうありませんが、当時はかまどがあって、そこで祖父が餅米を蒸し、ヨモギを大釜で茹でました。裏口の外に置いた臼で父や叔父が餅つきをしました。毎年、ひな祭りに合わせて大量の草餅をつきましたので、春休みといえば朝食は毎朝みそ汁ときなこをつけて食べる草餅と決まっていました。春の味そのものでした。
娘のいる弟は東京暮らしだし、わたしは相当に「いい歳」だし、もう苦労してひな人形を飾る気合いが出せる人間は家族にひとりも残っていないこともあって、一昨年、父が大量のひな人形を和歌山の淡嶋神社へ奉納しに行きました。この神社は人形を供養してくれることで有名です。
「最後に神社に置いてくるとき、何だか可哀想な気がしたよ」と父がぽつりとつぶやいたのが印象的でした。
ひな祭りは早春の日本の美しい習慣です。わたしにとっては懐かしく、ちょっと切ない季節です。
0コメント