週3回、丘の上に建つ大きな病院に通って仕事をしています。春はバラ園が見事でした。ところが、晩秋の今になっても、バラは咲きつづけているんです。
秋のバラも春と同じように美しく、良い香りがします。朝、病院に着くと、わざわざ庭をぐるっと回って、バラ園を抜けてオフィスがある棟に入ることにしています。
遠回りになりますが、そこがいいんです。
昔から「あそこを歩いてみたい」と特別な思い入れで眺めていた道というのがありました。
小学生の頃の通院中のバスの車窓から見えた竹林へとつづく道だったり、祖母の寝室から見えた土手沿いの椿の花の咲く道だったり。
わざわざそこを歩くために途中でバスを降りてみたり、田んぼのあぜ道をそうっと歩いて椿の花の道を通って友人を訪ねたりしました。今もそれは変わらないようで、色づいたカエデの林を抜けて、池のほとりをぐるっと回る小道をたどっているとワクワクします。その小道の端の石段を登るとバラ園に入り、足を止めて花の香りを嗅いだりしながら、ツルのアーチになったところから建物へと入ります。
「赤毛のアン」は何度も読みましたが、主人公のアンが自然豊かなアヴォンリーの村に「恋人たちの小径」や「輝く湖水」といった名前を付けたエピソードを思い出します。
さすがに名前を付けるほど夢想家でもないし、もはやそういう夢見る少女の年頃でもあるまいし、そういうロマンチックな連想はしませんが、林の中や水辺をたどる小さな道に不思議な魅力を感じるところは少しアンと共通しているのかもしれません。
仕事をする前に少しだけ遠回りしてみると、得した気分になります。
さもなければたやすく日常に埋没してしまう心が、日常を離れて、新鮮な呼吸をするからです。
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