アイボ








土曜の午前中に外出するときにいつも楽しみなのが、FM横浜を聴きながら運転できることです。
作家の小山薫堂さんと女性パーソナリティのおしゃべりが「面白い大人」ならではのエッセンスいっぱいで、毎回ハズレなしに楽しいからです。小山薫堂さんはWOWOWで映画紹介のコーナーも担当しておいでで、時々見ますが、名前入りの便箋を作ってもらえる浅草のお店を教えてもらったり、自分と同じベクトルの嗜好の持ち主とお見受けしました。もちろん、執筆作品も楽しませていただいております。

昨日もお茶の稽古のために沼津へ向かう40分ほどのドライブのあいだも楽しくてたまりませんでした。
ゲストがソニーの「アイボ」製作チームの責任者だったからです。小山薫堂さんはこれまで3台(3匹?3頭?)のアイボと一緒に暮らしたことのあるヘビー・ユーザーながら、人気沸騰の最新型アイボ(写真1)は生産が追いつかず、購入予約さえ制限されている現在、まだ入手できるメドが立たないと嘆いておられました。
番組中、アイボが人間に反応して「キャン、キャン」と鳴く声が聞こえました。旧モデルにはなかったことです。小山さんと女性パーソナリティはラジオという制約の中で、「はあい、お手!おっ、上手だねえ!」とか「ずっと尻尾振ってますね!」「お尻上げて尻尾振ってるこういうポーズ、犬ってよくやりますよね」などと懸命に実況してくれたので、アイボの姿を想像しながら運転することができました。

それで思い出したのが、初代アイボ(写真2)が出たばかりの頃、映画監督のアレックス・コックスと彼の奥さんと3人で有楽町の「ビック・カメラ」へ行く機会があって、5階だったかな、「アイボ・パーク」と呼ばれるアイボと遊べるコーナーに立ち寄った時のことです。ベビーサークルみたいな中に、5〜6台(匹?頭?)のアイボがいて、無料で遊ばせてもらえたのです。

ちなみに、アレックスとは長い付き合いで、彼とは何回も通訳として一緒にお仕事させてもらっていました。たぶん「ビック・カメラ」へ行ったのもなんらかの機材関係の調達のためだったと思います。ほかのお客さんと同じように「アイボ、おいで!」とか言いつつ頭を撫でて、目がグリーンに輝いて「快」を表現するのに感心したりしていましたが、そのうちこんなことをつぶやいたのでした。

「日本人っていうのは、なんて悲しいんだろう。世界でもトップクラスのテクノロジーを駆使して、犬が飼えない住環境を改善しようとするのではなく、犬ロボットを作って我慢しようとしているのだから」

アレックスが言わんとしていることはとてもよく理解できました。
当時のアイボはまだ機械っぽくて、まだまだ愛玩に値するような愛らしさが表現できていなかったのですが、それでも「団地でも犬を飼える!」と狂喜乱舞する日本人はたくさんいたのです。
しばらくして、青山の本屋で面白いポスターを見つけました。真ん中に愛らしい柴犬の子犬がいて、その上にこんなキャプションがついていました。

「ソニーさん。2020年頃のアイボはこういうのをお願いします」

誰が何のために作ったポスターは忘れました。その後、ソニーのアイボ・チームはいったん解散してしまい、アイボの生産は終了してしまいました。ところが、近年めざましく進歩したAIやクラウドのネットワークを用いたアイボの開発が改めて行われ、見た目も愛らしく、肉球も柔らかい(!)という新型アイボの登場となったのです。アイボは日本だけで販売されています。その理由は、日本以外の国は「犬型ロボットで我慢しよう」と思う前に犬が飼える住環境を得ることがさほど難しくないからでしょう。

昨日、ラジオの向こうで小山薫堂さんと女性パーソナリティは、「はあい、よちよち、いい子でしゅね!」「そっかそっか、ここが気持ちいいんでしゅね〜」とか、すっかり赤ちゃん言葉になり、運転する私を爆笑させてくれました。「日本人は悲しい」と言ったアレックスよ、あれから20年ぐらい経ってもなお日本人はこんな感じだけど、これはこれで良いんじゃないか?


玲子のカルペディエム

カルペディエム Carpe Diemは「今を生きよ」という意味のラテン語です。毎年、誕生日に外国のお友だちがこの言葉を贈ってくれて気にいりました。今は富士山の麓でミニチュアダックスのみんみんと暮らしていますが、40年ほど暮らした東京からのいわゆるUターン組です。通訳や翻訳(英語)を生業とし、今は地元のがん専門病院で医療スタッフの英語のお手伝いをしてます。ジャズ、ブラジル音楽、歌舞伎が好きです。

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