マット・ビアンコ






マット・ビアンコ Matt Bianco はイギリスのユニットです。リード・ヴォーカルのマーク・ライリー Mark Reilley とキーボード奏者のマーク・フィッシャー Mark Fisher の「ふたりのマーク」のコンビを中心に、サポート・メンバーを加えたバンドでジャズ、ソウル、ラテン・ファンク、ダンス系の音楽をやっています。人気女性シンガー、バーシア Basia が一時メンバーだったことでも知られています。
http://www.mattbianco.com/HOME.html

マット・ビアンコというユニット名については、「別に意味はなくて、ラテンっぽくて、スパイ映画の主人公みたいなカッコいい名前にしたかったから」と説明していました。ノリが良くてオシャレな感じの彼らの音楽性とぴったり合ったネーミングだと思います。

大ヒット曲「サンシャイン・デイ」が収録された(と記憶してますが…)アルバム「ワールド・ゴー・ラウンド World-Go-Round」の宣伝で来日したとき、通訳を務めました。その後も何回か、お仕事したことがあったと思います。「ふたりのマーク」を北と南に分け、札幌と福岡のプロモーションを同時にやる、なんてことがあり、わたしはマーク・フィッシャーと一緒に札幌へ行きました。ラジオの生番組に出演したら、彼の寿司好きを聞いていた番組スタッフがスタジオにウニの軍艦巻きを用意していて、それがまた豪勢に大きくて、マイクの前でそれをほおばって感想を言わなくてはならなかったマークをヒヤヒヤしながら眺めつつ仕事したこともありました。

しかし、強烈な印象を残してくれたのは何と言ってもマーク・ライリーのほうで、子どもができてからは少し大人になったらしいですが、当時はとにかくやんちゃでした。毎日、朝から夜までたくさんインタビューが入っていたのに、朝方まで六本木で羽目をはずしていました。しかも毎晩。ついに、朝の約束の時間になってもホテルのロビーに現れず、何回も電話しなくてはならなくなりました。今はもうない六本木プリンスの狭いロビーで館内電話を使って、何回も彼を呼び出したことは忘れられません。

「だってさあ、ラジオだし。マーク・フィッシャーだけ行って、マット・ビアンコだって言えばいいじゃん。それで文句言うヤツなんていないよ」
「そんな。このインタビューをとりつけるために、SさんとかTさんとか、みんなどれだけ頑張って働いたと思う?ひとりしか来なかった、なんてことでラジオ局の人が怒っちゃったら、SさんもTさんもメンツ丸つぶれになっちゃうでしょ?」

そんなやりとりの末、ようやく連れ出したり。それより重大だったのがテレビの生番組でした。「TVジョッキー」という「熱湯コマーシャル」で有名だった番組です。マーク・ライリーはまたしても六本木で遊びまくり、朝方に女の子たちとラーメン屋に寄ってからのご帰還だった、と担当のSさんが疲れ切ってゲンナリした表情で説明していました。

例によって館内電話で何回も「早く来い」を繰り返した挙げ句、やっとロビーに下りてきたライリーは、なんと昨夜のシャツのまんま。しかも胸のあたりにラーメンの汁みたいなシミもついてるし…。

「そのまま行く気?……テレビなのに」
「見えやしないさ」

着替えさせる時間もなく、ついにラーメンのシミつきシャツでスタジオ入りするという前代未聞の事態になりました。

リハーサルで段取りの説明があったのですが、最後に(彼らの代わりに)水着姿で熱湯風呂に入る女の子が耐えた時間だけアルバムの宣伝が行われるブースのそばに立たされたとき、「時間になると上から扉がバタンと落ちてきて危ないですから、ここに手をかけたりしないでください」という細かい注意がありました。そして本番。

セットの陰でスタンバイしていると、目の前にセットのひな壇に座った女の子たちの足首が並んで見えました。それをイタズラ好きのマーク・ライリーが見逃すはずもなく、両手で足首を次々に握ったのです。
「キャッ!」
本番中に女の子たちが小さく悲鳴を上げました。あわててやめさせた直後、「では、マット・ビアンコのおふたりに登場していただきましょう!」の声。スタジオ中央に鎮座する例の透明なバスタブから本物の湯気が上がっていました。上島竜兵さんの背中の赤さから、本当に熱いのだとわかりました。水着の女の子はわずか5、6秒間しか耐えられず、短い宣伝となりました。ふたりのマークは段取りどおり、ブースのわきに立ちました。すると……。

マーク・ライリーが何気なく「ダメ」と言われた落ちてくる扉のところに手をかけているではありませんか。もちろん確信犯です。「やっちゃダメ」なんて言われると余計やるのです。リハのとき、ディレクターの注意を訳しながらイヤな予感があったのですが。通訳らしく彼の陰に隠れ気味で立ちつつ、鋭く背中を引っ張ってその手をブースから離させたとたん、上から扉がバタッと落ちて来たのでした。

先日、久しぶりにブルーノート東京で彼らのショーを見る機会に恵まれました。マーク・フィッシャーからのご招待でした。以前よりパワーアップしたステージを堪能させてもらいました。あの恐怖の「熱湯コマーシャル」も、今は良い思い出です。


玲子のカルペディエム

カルペディエム Carpe Diemは「今を生きよ」という意味のラテン語です。毎年、誕生日に外国のお友だちがこの言葉を贈ってくれて気にいりました。今は富士山の麓でミニチュアダックスのみんみんと暮らしていますが、40年ほど暮らした東京からのいわゆるUターン組です。通訳や翻訳(英語)を生業とし、今は地元のがん専門病院で医療スタッフの英語のお手伝いをしてます。ジャズ、ブラジル音楽、歌舞伎が好きです。

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