スベリヒユ








田舎の夏はまったくもって雑草との戦い。草刈り、草取り、除草剤。何をしようと、敵はすぐに元気よくなって、みるみる成長して繁茂します。昔、ここの家の庭にそんなに雑草がはびこっていたような記憶はないのですが。亡くなったおじいちゃんもおばあちゃんも、マメに草取りをしていたのかもしれません。昔はガーッと雑草を刈り取る草刈り機なんて使っている人いなかったし、除草剤も普及していませんでした。おじいちゃんとおばあちゃんは、黙々と畑をクワで耕し、かがんで草取りをし、木々や草木を慈しむ暮らしをしていたんです。

いつも散歩に行く農村部の農家さんの中には、今もそんなふうに暮らしておられる方々がおられます。クワで耕し、野菜を植えて、かがんで黙々と草を引き抜く日々。そんな農家さんの畑はいつも黒々とした土が豊かで柔らかそうで、雑草生え放題の私の菜園とは大違い。

そんな農家さんが憎々しげにスベリヒユを山盛りにした籠を手に、「これからこいつを川へ流して来るんだ」とおっしゃいました。スベリヒユは生命力が強くて、根こそぎ引き抜いて畑の隅に積んでおくと、枯れる代わりにそこから根付いてまた広がるのだそうです。堆肥にならない雑草は処分するしかありません。川へ流したら、下流に流れ着いたところでまた増えると思うけれど。

そこで。「スベリヒユは食用である」という、今や常識となっているらしいけれども田舎では全く知られていない奇妙な事実があるのです。
http://portal.nifty.com/kiji/150821194367_1.htm
ネットで検索すると、あっという間にいろんなレシピが出てきます。

「それ、食べられるんですよ」

私がそう言うと、もう何十年もこれを引き抜いては捨てるを繰り返してきたに違いないベテラン農家の武藤さんご夫妻が目をまん丸にしました。

「ウソ!」
「いや、本当です。外国では昔から食べられていたものだそうです」
「そんなら、食べてみ。うちらはイヤだよ。だって、草だもん」

まあね。草ですけどね。そんなわけで、武藤さんは籠から山盛りのスベリヒユを私に差し出し、私はそれを持って帰ることになったのでした。

スベリヒユは切るとぬめりが出ます。刻んでゴマ油で炒めて、醤油で味付けしたものを作ってみました。
ちょっと酸味があり、多肉植物的見た目どおり、歯応えがシャキシャキしていて、まずくはありません。

でも。
正直言うと、すごく美味しいとも思いませんでした。翌日、また畑にいらした武藤さんご夫妻がニコニコしながら「どうだった?」とお尋ねになったので、「ゴマ油で炒めて食べました」と報告しました。

「美味しかった?」
「・・・・・他に食べる野菜があったら、食べないと思います」

それを聞いた武藤さんご夫妻はゲラゲラ笑い出しました。所詮は草なんだから仕方ないです。
でも、まあ、食べられると知れば、雑草もそんなに憎いとは思わなくなるかも。


玲子のカルペディエム

カルペディエム Carpe Diemは「今を生きよ」という意味のラテン語です。毎年、誕生日に外国のお友だちがこの言葉を贈ってくれて気にいりました。今は富士山の麓でミニチュアダックスのみんみんと暮らしていますが、40年ほど暮らした東京からのいわゆるUターン組です。通訳や翻訳(英語)を生業とし、今は地元のがん専門病院で医療スタッフの英語のお手伝いをしてます。ジャズ、ブラジル音楽、歌舞伎が好きです。

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