思い出は心の中に

生まれてから5歳ぐらいまで、少し離れたところにある小さな家で育ちました。駅前で旅館をやっていた本家の隠居だったそうで、小さいながら、玄関前に樫かクヌギみたいな感じの木があったり、裏手の庭には小さな池もあってスイレンの花が咲いていたり、玄関横には増築したと思われる洋間があったり、今思えばちょっと上品な昔風の家でした。人手に渡って何十年も経っていましたが、一昨日の朝、ついにその家の取り壊し工事が始まったのを見ました。


古いアルバムを開いてその家の写真を探しましたが、かろうじて玄関が写っているこの写真だけ。本家からこの家を購入した一家は薬屋へと大胆な改築をしましたが、やがて薬剤師だった老夫婦が亡くなり、住む人もなく荒れ果てました。数年前にこちらに戻ってからも、あまりの惨状に写真を撮ることをためらいました。こうなると、それがとても悔やまれます。(ちなみに、この赤ん坊はわたしです。)


写真の左半分、濃い色の屋根の部分だけが昔のままでした。当時は隣のドラッグストアなんか無くて、そこには瀟洒なおうちがあって、きれいなお姉さんがいて遊んでくれたりしました。手前の小高い土手は田んぼでしたが、今は駐車場です。そこから最後となるこの写真を撮りました。


ここで暮らしたのは弟が生まれる前のことですし、父も母も他界した今、「懐かしいね、寂しくなるね」みたいな話ができる相手はひとりもいません。思い出はただわたしの心の中だけに残っています。

玲子のカルペディエム

カルペディエム Carpe Diemは「今を生きよ」という意味のラテン語です。毎年、誕生日に外国のお友だちがこの言葉を贈ってくれて気にいりました。今は富士山の麓でミニチュアダックスのみんみんと暮らしていますが、40年ほど暮らした東京からのいわゆるUターン組です。通訳や翻訳(英語)を生業とし、今は地元のがん専門病院で医療スタッフの英語のお手伝いをしてます。ジャズ、ブラジル音楽、歌舞伎が好きです。

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