みねこに会いたい

車通勤です。帰りのドライブの楽しみは、沿道ののどかな田舎の風景を眺めながら、テレビのNHKの番組の音声を聴くことです。夕方、ちょうど帰宅時に昔の連ドラの再放送をやっていて、それを聴くのが楽しくてたまりません。

テレビのドラマを音声だけ聴いてみると、映像を見ているときとは違う楽しみかたができます。俳優さんの力量がより明確にわかりますし、脚本の出来もはっきりわかります。優れた脚本を実力のある俳優さんが演じていると、映像を見ていなくても、驚きで息を呑んだ緊張感とか、気まずくさにたじろぐ様子などが目に浮かびます。夕方の連ドラは1日に2回分が放送されるので、本来なら半年かかる物語がその半分くらいで終わります。この時間帯のNHKは国会中継や大相撲中継などが入ることも多く、物語の続きが知りたくていそいそと車に乗り込んだのに、連ドラ再放送は中止と知ってがっかりすることもしばしば。でも、その分、その連ドラを長く楽しめることになるので、得した気分になったりもします。


今年はずっと「ひよっこ」でした。新型コロナウイルスの感染拡大で、特別な国会中継だの首相や専門家たちの記者会見が続き、夕方の「ひよっこ」は何回も中止になりました。私はこのドラマが朝の本来の時間帯に放送されていた頃には見ておらず、奥茨城の農村からスタートする昭和の昔の物語にすっかり夢中になってしまいました。有村架純さんをはじめとする俳優さんたちがみんな茨城弁が上手で芸達者で、音声だけでも本当に楽しめました。運転しながら、ひとりで何回も声をあげて笑ったりしたものです。


有村さん扮する奥茨城の女の子「みねこ」は、高校を卒業してすぐ東京へ出て、寮住まいの工場の女工さんになります。東京に出稼ぎに出ていた父親が消息不明になり、父を探しながら、実家へ仕送りをして家計を支えようとしたのです。昭和30年代の日本の世相が生き生きと描かれ、ダサい田舎の女の子だったみねこやその友人たちは、都会の厳しさや時代の流れにもまれながら成長していきます。


実は、わたしはこのドラマが放送されていた時期がかなり前だったのだろうと勝手に思い込み、コミカルかつリアルに描かれる昭和の日本を、まだ仲良く一緒に暮らしていた頃の父と母がさぞや楽しく見たことだろうと想像していました。特に、ミニスカート流行に動揺する昭和の日本人やビートルズ来日に赤飯を炊く商店街の人々など、母ならきっと大笑いしながら見ていただろうと、その笑顔を想像してはほっこりしていました。


その「ひよっこ」も今週最終回を迎えて終了したのですが、今日、何気なく「ひよっこ」のデータを検索して調べてみたわたしは、そのとき初めて、これが2017年に放送されたドラマであったことを知りました。母は2016年の12月に亡くなったので、このドラマを見る機会はなかったのです。きっと楽しんだに違いないと勝手に思い込み、毎回音で聴くドラマに母の笑顔を想像していたわたしは、ふいに悲しいような寂しいような、たまらなく複雑な心持ちにとらわれました。


働き者で家族思いで、健気で素直で、ダサさいっぱいだけど可愛い「みねこ」を、仕事終わりに家路を急ぎながら、毎日応援していました。生前の母もきっと同じように応援したことだろうと想像しながら。

ドラマが終了してから、その思いを「母親も生きていたらきっとこのドラマを楽しんで、みねこを応援したことだろう」と修正しました。「ひよっこ」が終了してしまって、いろんな意味で寂しい限りです。

玲子のカルペディエム

カルペディエム Carpe Diemは「今を生きよ」という意味のラテン語です。毎年、誕生日に外国のお友だちがこの言葉を贈ってくれて気にいりました。今は富士山の麓でミニチュアダックスのみんみんと暮らしていますが、40年ほど暮らした東京からのいわゆるUターン組です。通訳や翻訳(英語)を生業とし、今は地元のがん専門病院で医療スタッフの英語のお手伝いをしてます。ジャズ、ブラジル音楽、歌舞伎が好きです。

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